Japanische Klassiker mit Furigana
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『てっぽうさへいじ』ついでにもひとつ
たそがれの人間 佐藤春夫怪異小品集【底本画像有】
佐藤 春夫
Lesen Sie たそがれの人間 佐藤春夫怪異小品集【底本画像有】 (『てっぽうさへいじ』ついでにもひとつ) von 佐藤 春夫 (さとうはるお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 23.182 Zeichen · 48 Bildschirme
相手は云いかけて言葉をと切らせたのでわたくしは、
「道玄坂のお邸ですか」
「いえ、道玄坂ではございません、道灌山でございますよ」
わたくしは二三年前のあの電話を思い出さないでは居られなかった。わたくしは心ひそかによろこんだ。先年の謎がどうやら解けかかって来たような気がしたものだから。
「あ、道灌山でしたか、その道灌山のお邸というのは何町何番地の何様ですか」
「最初に図面を書いていただいて場所はよく存じ上げて居るのですが町名や番地は失念しましたが、お名前は石崎さまと仰言いました」
「その石崎さまがどうかしましたか?」
「左様で、不意にお引越しあそばされましたのでして」
相手はこの時まで伏せていた顔を上げて、わたくしを見上げたようである。わたくしも彼の顔を注意してみた。所番地を知らないなどうさんげなと思わぬでもなかったのに、見れば、粗野なおやじではあるが、実直げで、何ら悪党らしい感じは受け取らなかった。女中の鑑定だってまんざらでもない。わたくしは袂をさぐって煙草を一本ぬき出して火をつけている間に、相手はやっと云うべき言葉を見つけ出したかのように、
「気がついてお隣さんで伺ってみますと、何でも急のお思い立ちでお引越しとか。