Japanische Klassiker mit Furigana
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わがまち
わが町
織田 作之助
Lesen Sie わが町 (わがまち) von 織田 作之助 (おださくのすけ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 93.840 Zeichen · 186 Bildschirme
よう辛抱してくれたな」
他吉ははや啜りあげたが、やがて、かさかさした掌で涙を拭くと、
「――ここに八百円あるねん。この金ここぞという時の用意に、いや、君枝の将来を見届けた暁に、死んだ婿の墓へ詣りがてら一ぺんマニラへ行って来たろ思て、その旅費に残して置いたんやが、もうこうなったら今が出し時や。この金で病院の払いをして、残った分を君枝のお産と、次郎ぼんの養生の費用(いりよう)にしてくれ」
「いや、そんなことをして貰たら困る。それはお祖父ちゃんの葬式金に残しといて」
次郎が手を振ると、
「げん糞のわるいことを言うな。葬式金を残すようなベンゲットの他あやんや思てるのか」
他吉は眼をむいた。
「そんなら、マニラ行きの旅費に……」
「知らん土地やなし、旅費はのうても、いざという時になったら、泳いででも行くわいな」
歯の抜けた顔で笑ったが、他吉はすぐしんみりして、
「――それにこの金の中には、君枝が下足番をして貰た金もはいってるんや。遠慮する金やあれへんぜ」
他吉はついぞ見せたことのない涙を、ぽたりぽたり落した。
9
次郎はやがて退院した。そして、君枝のお産が済む頃には、すっかり元の身体になっていた。