Japanische Klassiker mit Furigana
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わがまち
わが町
織田 作之助
Lesen Sie わが町 (わがまち) von 織田 作之助 (おださくのすけ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 93.840 Zeichen · 186 Bildschirme
客は戸をしめるのを忘れた。いちいちそれを閉めに立った。その都度、鼻の先がチカチカ痛みをもった。
矢張り悲しかった。
けれど、他吉は夜おそく身をこごめて日の丸湯の暖簾をくぐる時、自身で草履をしまい、ろくろく君枝の顔をよう見なんだ。
君枝が渡す下足札を押しいただいて受けとり、その手は血の色もなく静脈が盛り上って、かさかさと土のようで、子供心に君枝は胸が痛み、ひとびとが言うほど自分が祖父から辛く扱われているとは、思えなんだ。
むしろ、このように働くのを自分の運命だと、君枝はなにか諦めていたようだったが、けれどただひとつ、昼間客のすくない時の退屈さは、なんとも覚えのない悲しさで、ガラス戸越しに表通りを見るともなく見て、無気力な欠伸をはきだしていると、泣きたくなった。
そうして、いつかしくしく泣きながら居眠ってしまうのだが、そんな時いつも起してくれるのは、ガラス戸の隙間にシュッと投げ込まれる夕刊の音だった。
「あ、次郎ぼん!」
外は寒かったが、表へ出て見ると、風が走り、次郎の姿はもう町角から消えていて、犬の鳴声が夕闇のなかにきこえた。
しかし、次郎はもう犬をこわがる歳でもなく、間もなく夕刊配達をよして、東京へ奉公に行った。