Japanische Klassiker mit Furigana
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イタリアじん
イタリア人
寺田 寅彦
Lesen Sie イタリア人 (イタリアじん) von 寺田 寅彦 (てらだとらひこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 3.981 Zeichen · 8 Bildschirme
アクセントのおかしいイタリア人の声が次第に高くなる。そんな時は細君のことをアナタが/\と云う声が特別に耳立って聞える。嵐が絶頂になって、おしまいに細君の啜り泣きが聞え出すと急に黙ってしまう。そして赤ん坊を抱いて下駄ばきで庭へ出る。憤怒、悲哀、痛苦を一まとめにしたような顔を曇らせて、不安らしく庭をあちこち歩き廻るのである。異郷の空に語る者もない淋しさ佗しさから気まぐれに拵えた家庭に憂き雲が立って心が騒ぐのだろう。こんな時にはかたくななジュセッポの心も、海を越えて遥かなイタリアの彼方、オレンジの花咲く野に通うて羇旅の思いが動くのだろうと思いやった事もある。細君は珍しいおとなしい女で、口喧ましい夫にかしずく様はむしろ人の同情をひくくらいで、ついぞ近所なぞで愚痴をこぼした事もない。従ってこの変った家庭の成立についても細君の元の身分についても、何事も確かな事は聞かれなかった。今は黒田も地方へ行ってしまってイタリア人の話をする機会も絶えた。
こんな事を色々思い出して帰って来ると宅のきたないのが今更のように目に付く。よごれた畳破れた建具を見まわしていたが、急に思いついて端書を書いた、久し振りで黒田にこんな事を書いてやった。