Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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ノンシャランどうちゅうき

ノンシャラン道中記

久生 十蘭

Lesen Sie ノンシャラン道中記 (ノンシャランどうちゅうき) von 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 12.165 Zeichen · 24 Bildschirme

Aozora Bunko

んでございます。今でも覚えておりますが、その恋の辻占の文句は「旦那の接吻は兎の早駆け」と申すんでございました。そばにいらした旦那さまは、急に髪の毛の中まで真赤になっておしまいになるし、わたくしとても、このうえどうしてのめのめと、お優しい夫人さまに毎日顔を合せることができましょう。それから流れ流れて、この島で八人の子供を産むまでの難儀の数々、筆にも紙にも尽せるものではございません。その連れ合いというのも、去年の春の日暮がた、鰯をとるといって沖へ出たまま、乗って行ったボートだけを帰してよこして、自分はいまだに報り一つよこさないという呑気な話、とうてい末始終手頼になるような男ではございません。ところが、あまり不幸なわたくしの境涯に、多分神さまもお憐れみ下すったのでございましょう、このごろ、わたくしは胸の底が疼くような、なま温いような、擽いような、……小夜ふけに寝床の中で耳を澄ましますと、わたくしの鼓動が優しくコトコトと鳴るのでございまス。と申しますのは、もうお察しのことと思いますが、何しろ気立てのいい床屋の若い衆なんでして、それが乗馬ズボンをはいて歩いている時なんてものは、いっそ脹っ脛にかみついてやりたくなるほど、いい様子なんでございまス。