Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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ヘヤーピンいっぽん

ヘヤーピン一本

豊島 与志雄

Lesen Sie ヘヤーピン一本 (ヘヤーピンいっぽん) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 8.246 Zeichen · 17 Bildschirme

Aozora Bunko

鍵の手になってる建物の、あちらの一廓が賑かだ。あとで聞いたことだが、戦災にあった親戚の大人数の一家が住んでいる。こちらの方はひっそりしている。可なり広い庭に、適度な植込みがあり、頬白が茂みの中に動いている。その庭の、縁側伝いの彼方に、セメント造りの大きな池があり、どういう仕掛けか水がちょろちょろ注いでいて、みごとな真鯉がいくつも泳いでいた。

その池のところへ行って、俺は鯉を眺めた。そしてそこで、紅茶をのみ、果物をたべ、新聞をよみ、また鯉を眺めた。午後になってすぐ岩木が帰ってくると、彼といっしょに鯉を三尾ほど捕えて、それを酒の肴に料理した。

岩木は十年前と殆んど変っていなかった。俺の方も変っていないと彼はいう。そして二人で顔見合せて笑い、楽しく語り合った。だがそれらのことは、この物語と関りないから、省略しよう。

俺の旅程では、どうしても、その晩の汽車で立たなければならない。スーツケースも駅に一時預けしてきたほどだ。だから二人は、急いで飲み、急いで食い、急いでいろいろなことを話した。その話に、久子さんは殆んど加わらなかった。別な存在のようで、或は人形のようで、ただ席に侍ってるだけだ。