Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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ヘヤーピンいっぽん

ヘヤーピン一本

豊島 与志雄

Lesen Sie ヘヤーピン一本 (ヘヤーピンいっぽん) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 8.246 Zeichen · 17 Bildschirme

Aozora Bunko

俺はスーツケースをぶらさげて、さまよい出た。

時間から推して意外にも、明るい賑かな街路がある。空襲の焼跡に出来たらしい狭い街路で、ちゃちなバラックの軒並だが、おでん、うどん、すいとん、みつまめ、コーヒー、煮物など、各種の飲食物の小店に、ガチャンコの遊び場まで交っていて、まばらな人影が動いている。少しく行くと、宿屋の看板があって、表戸は開け放しで、帳場の中も明るい。

汽車の疲れと睡眠不足とのため、俺はただ茫然として、それらの光景の中を泳いで行った。そして宿屋の帳場の前に立った。

「頼みます。誰かいませんか。」

帳場の小障子が開いて、年増の女中が顔を出した。

「願います。寒くて眠くて、どうにもならん。」

「もうだめですよ。室がいっぱいで。じきに夜が明けますよ。」

「だから、ちょっとの間でいいんです。そこの、帳場の隅っこでもいいから、休まして下さい。贅沢は言いません。」

俺は玄関にスーツケースを置き、腰もおろした。

暫く間をおいて、女中は言った。

「仕様のない人だ。じゃあ、わたしがもう起きるから、ここに寝なさい。」

女中の寝床に寝かすのかと思うと、そうではなく、押入れの中の布団と取りかえてくれた。