Japanische Klassiker mit Furigana
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マダムさだやっこ
マダム貞奴
長谷川 時雨
Lesen Sie マダム貞奴 (マダムさだやっこ) von 長谷川 時雨 (はせがわしぐれ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 26.999 Zeichen · 53 Bildschirme
世にはその境遇を問わず、道徳保安者の、死んだもののような冷静、無智、隷属、卑屈、因循をもって法とし、その条件にすこしでも抵触すれば、婦徳を紛紜する。しかし、人は生きている。女性にも激しい血は流れている。人の魂を汚すようなことは、その人自身の反省にまかせておけばよいではないか? わたしは道学者でない故に、人生に悩みながら繊い腕に悪戦苦闘して、切抜け切抜けしてゆく殊勝さを見ると、涙ぐましいほどにその勇気を讃え嘉したく思う。
ああ! 貞奴。引退の後の晩年は寂寞であろう。功為り名遂げて身退くとは、古えの聖人の言葉である。忘れられるものの寂しさ――それも貴女は味わねばなるまい。しかし貴女は幸福であったと思う。何故なら貴女は、愛されもし愛しもし、泣いたのも、笑ったのも、苦しんだのも、悦んだのも、楽しんだのも、慰められたのも、慰めたのもみんな真剣であった。それゆえ貴女ほど信実の貴い味を、ほんとに味わったものは少ないであろう。その点で貴女は、真に生甲斐ある生活をして来たといわれる。わたしは此処に謹んで御身の光輝ある過去に別れを告げよう、さようならマダム貞奴!
――大正九年三月――