Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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レモンのはなのさくおかへ

レモンの花の咲く丘へ

国枝 史郎

Lesen Sie レモンの花の咲く丘へ (レモンのはなのさくおかへ) von 国枝 史郎 (くにえだしろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 71.016 Zeichen · 142 Bildschirme

Aozora Bunko

夕暮のことでありますから、沖の波は荒れて大きなうねりが磯に寄せて参ります。磯に寄せた大波はそこで砕け、白い泡沫が雹のように飛び散るのでござります。娘はその浜の水辺に立って、自分の影を見詰めておりましたが、影は長く砂に落ちているのでござります。(間)娘は老いた領主の一人子でありましたから、不足なく育てあげられておりました。(間)その時の娘の心は全くの虚心平気と云うわけではござりませぬ。何んと名づけてよいか名づけようのない心持ちが娘の心を領しておりました。もっと完備した生活を送りたいと願う心でもなく、自由に世の中へ出たいと思う心でもござりません、両親の愛を不足に思うでも兄弟の無いのをつまらなく思うのでもなく、もっと高い感情でござりました。まあ云って見ますれば、形のない憧憬とでも申しましょうか、ただ心が或る美しい幻影を描き出し、その幻影を捉えようとあせるのでござります。

公子 (熱心に)その幻影と申すのは恋のことではござりませぬか。

女子 さようかも知れませぬ。(間)あの時の感情は、今思うたとて、とても思い出せるものではござりませぬ。(間)娘はただ恍惚として自分の影を見詰めておりました。