Japanische Klassiker mit Furigana
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ウィタ・セクスアリス
ヰタ・セクスアリス
Lesen Sie ヰタ・セクスアリス (ウィタ・セクスアリス) von Mori Ōgai (森 鴎外) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 58.941 Zeichen · 119 Bildschirme
僕はぼんやりしてすわっていると、左の方から僕の鼻の先へ杯を出したものがある。
「あなた」
芸者の声である。
「うむ」
僕は杯を取ろうとした。杯を持った芸者の手はひょいと引込んだ。
「あなたじゃあ有りませんよ」
芸者は窘めるように、ちょいと僕を見て、僕の右前の方の人に杯を差した。笑談ではない。笑談を粧ってもいない。右前にいたのは某教授であった。芸者の方には殆ど背中を向けて、右隣の人と話をしておられた。僕の目には先生の絽の羽織の紋が見えていたのである。先生はやっと気が附いて杯を受けられた。僕がいくらぼんやりしていても、人の前に出した杯を横から取ろうとはしない。僕は羽織の紋に杯を差すものがあろうとは思い掛けなかったのである。
僕はこの時忽ち醒覚したような心持がした。譬えば今まで波の渦巻の中にいたものが、岸の上に飛び上がって、波の騒ぐのを眺めるようなものである。宴会の一座が純客観的に僕の目に映ずる。
教場でむつかしい顔ばかりしていた某教授が相好を崩して笑っている。僕のすぐ脇の卒業生を掴まえて、一人の芸者が、「あなた私の名はボオルよ、忘れちゃあ嫌よ」と云っている。