Japanische Klassiker mit Furigana
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ひとつのできごと
一つの出来事
宮本 百合子
Lesen Sie 一つの出来事 (ひとつのできごと) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 11.024 Zeichen · 23 Bildschirme
けれども、そのお人好しを私は決して拒絶しようとは思わなかった。自分は偽(だま)されても正直者の方がよい。疑い合い、索(さぐ)り合い要心し合って暮す人生が、どうして歓びへの第一歩であろう、そう偽されても正直者の方がよい――がしかし、私の心持は平静ではない。晴朗さがかき乱される。多少ながらそれを自覚することが、また一層自分自身に苦々しいのである。
私は渋い顔をして床に就いた。
四
眠りに就くまで苦しい気分が去らなかった昨夜のことは、一夜経って目覚めるとともに、どうかしてすっかり忘れていた。
まして今日は勉強にこの上もない天気である。ギラギラし勝ちな日光は柔かく薄雲に包まれて、澄み渡った湖面が和(なご)やかな藍を溶かしている。新鮮な目覚めるような微風が、爽(さわやか)に楡の梢を揺らめかせては、小部屋一杯に溌溂(はつらつ)とした大気を漲らせる。お気に入りの涼味と穏やかな陰影とが、散らばった紙や書籍に優しく絡んで自分を待っていてくれたのを見ると、どんなに私は悦ぶだろう、八月の始めに故国へ帰る人に託そうとする原稿は、まだ沢山溜っている。それだのに激しく暑かったり、大風が吹いたりして気分の纏らない日はほんとに辛い。