Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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ひとにぎりのかみのけ

一握の髪の毛

田中 貢太郎

Lesen Sie 一握の髪の毛 (ひとにぎりのかみのけ) von 田中 貢太郎 (たなかこうたろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 6.548 Zeichen · 14 Bildschirme

Aozora Bunko

自動車は山の手の嫩葉の多い街を往った。目黒駅の片隅には彼女が黒っぽい服装をして、人に顔を見られないように新聞紙の中へ顔をうずめるようにして待っていた。章一はちょと咳をして女の注意を惹くなり、その時発車しようとしている電車の前の方へ乗ると、女はすましてその電車の後から乗った。

二人はそうして多摩川縁の停留場におりて、そこの丘の上にある鉱泉旅館へ往った。嫩葉に包まれたその丘にはさつきが美麗に咲いていたが、女の眼には映らなかった。

「遅かったわ、ね、なにしてたの」

「あいつの、ヒステリーが起ったものですからね」

章一は揮りかえって、女の顔を見てにっと笑った。

「そうお、こわいわ、ね、だけど、なにか、うっかり喋ったじゃないこと、ヒステリーを起さすようなことを」

「まさか」

「でも、男のかたは、なんでもべらべら喋るのですもの、喋ってたじゃないこと」

その鉱泉旅館へ一二回往ったことのある二人は、すぐ多摩川の流れを欄干の前に見る離室へ通された。二人はその離室で午食とも夕食とも判らない食事をしながら話した。章一は酒を飲んでいた。

うとうとしていた章一は、片頬に温な緊縛を覚えたのでふと眼を開けた。