Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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ひとあしおさきに

一足お先に

夢野 久作

Lesen Sie 一足お先に (ひとあしおさきに) von 夢野 久作 (ゆめのきゅうさく) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 40.200 Zeichen · 79 Bildschirme

Aozora Bunko

縒れ縒れのタオル寝巻の下に折れ曲って、垢だらけの足首を覗かせている。それだのに右足はいくら探しても無い。タッタ今飛び上るほど疼んだキリ、影も形も無くなっている。

これはどうした事であろう……怪訝しい。不思議だ。

私はねぼけ眼をこすりこすり、そこいらを見まわした。

森閑とした真夜中である。

黒いメリンスの風呂敷に包まった十燭の電燈が、眼の前にブラ下がっている。

窓の外には黒い空が垂直に屹立っている。

その電燈の向うの壁際にはモウ一つ鉄の寝台があって、その上に逞しい大男が向うむきに寝ている。脱けはだかったドテラの襟元から、半出来の龍の刺青をあらわして、まん中の薄くなったイガ栗頭と、鬚だらけの達磨みたいな横顔を見せている。

その枕元の茶器棚には、可愛い桃の小枝を挿した薬瓶が乗っかっている。妙な、トンチンカンな光景……。

……そうだ。私は入院しているのだ。ここは東京の築地の奎洋堂という大きな外科病院の二等室なのだ。向うむきに寝ている大男は私の同室患者で、青木という大連の八百屋さんである。その枕元の桃の小枝は、昨日私の妹の美代子が、見舞いに来た時に挿して行ったものだ……。