Japanische Klassiker mit Furigana
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みうらろうじんむかしばなし
三浦老人昔話
岡本 綺堂
Lesen Sie 三浦老人昔話 (みうらろうじんむかしばなし) von 岡本 綺堂 (おかもときどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 113.637 Zeichen · 224 Bildschirme
「置いてけえ。」
阿部さんもぎょっとしました。子供のときから本所に育った人ですから、置いてけ堀のことは勿論知っていましたが、今までこゝらの川筋は大抵自分の釣場所にしていても、曽て一度もこんな不思議に出逢ったことは無かったのに、きょう初めてこんな怪しい声を聴いたというのはまったく不思議です。しかし阿部さんは今年二十二の血気ざかりですから、一旦はぎょっとしても、又すぐに笑い出しました。
「はゝ、おれもよっぽど臆病だとみえる。」
平気でびくを片附けて、それから釣竿を引きあげると、鈎にはなにか懸っているらしい。川蝦でもあるかと思って糸を繰りよせてみると、鈎のさきに引っかゝっているのは女の櫛でした。ありふれた三日月型の黄楊の櫛ですが、水のなかに漬かっていたにも似合わず、油で気味の悪い程にねば/\していました。
「あゝ、又か。」
阿部さんは又すこし厭な心持になりました。実をいうと、この櫛は午前に一度、ひるすぎに一度、やはり阿部さんの鈎にかゝったので、その都度に川のなかへ投げ込んでしまったのです。それがいよ/\釣仕舞というときになって、又もや三度目で鈎にかゝったので、阿部さんも何だか厭な心持になって、うす暗いなかでその櫛を今更のように透して見ました。