Japanische Klassiker mit Furigana
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さんりょうきょう
三稜鏡
佐左木 俊郎
Lesen Sie 三稜鏡 (さんりょうきょう) von 佐左木 俊郎 (ささきとしろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 21.347 Zeichen · 42 Bildschirme
私はするともう、猫の声に脅え戦く鼠のように、博士の声に縮みあがって了って、何ももう云うことが出来なくなるのであった。それは何故なのか、その心理現象は私自身にもわからなかった。
「併し、儂は、何処までも続ける。厭なら君は止めるがいい。誰が何んと云おうと儂は医術のために続けるから」
笠松博士はそう喚きながら、私を研究室の扉の外に残して置いて、研究の実験に供する女を部屋の中に拉れ込むのであった。
私はもう全くどうしていいかわからなかった。そして私は博士が怖ろしくなって来ていた。精神的欠陥のある博士は、何時、私までもその研究の実験材料に供するかも知れないような感じが、私の衷には日に日に激しくなって来た。併し、私がそうして博士を怖れるようになって来た頃には、私をどうしても博士から離すまいとする一つの感情が、私を固く縛っているのであった。それは博士の令嬢を通じての感情であった。令嬢と私との間に沸騰している恍惚感であった。私と令嬢との間では、一度として(愛)とか(恋)とか云う言葉を使ったことはなかったが、私は併し、令嬢の眼の中に含む表情や微笑の中に含む表情から、言葉以上の意志表示を判然と受取ることが出来た。