Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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しゃんはい

上海

横光 利一

Lesen Sie 上海 (しゃんはい) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 145.628 Zeichen · 292 Bildschirme

Aozora Bunko

すると、お杉は、泥溝の水面で静かにきりきりといつまでも廻っている一本の藁屑を眺めながら、誰か親切な客でも選んで、一度日本へ帰ってみようかとふと思った。もう彼女には日本の様子が、今はほとんど何も分らなかった。記憶に浮かんで来るものは、長々と立派な線を引いた城の石垣や、松の枝に鳴っている風や、時雨の寒そうに降る村々の屋根の厚みや、山茶花の下で、咽喉を心細げに鳴らしている鶏や、それから、人の顔のように、いつもぽつりと町角に立っていた黒いポストやが、ちらちらとそれもどこで見たとも分らぬ風景ばかりが浮かんで来るのだった。

しかし、今自分のこうして眺めている支那の街の風景は、日本とは違って、何んとのんびりしたものであろう。朝から人は働きもせず、自分と同様、欄干からぼんやり泥溝の水の上を見ているのだ。水の上では、朝日がちらちら水影を橋の脚にもつらせていた。縮れた竿の影や、崩れかけた煉瓦のさかさまに映っている泡の中で、芥や藁屑が船の櫂にひっかかったまま、じっと腐るようにとまっていた。誰が捨てたとも分らぬ菖蒲の花が、黄色い雛鳥の死骸や、布切れなどの中から、まだ生き生きと紫の花弁を開いていた。