Japanische Klassiker mit Furigana
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ここのつのかぎ
九つの鍵
野村 胡堂
Lesen Sie 九つの鍵 (ここのつのかぎ) von 野村 胡堂 (のむらこどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 21.349 Zeichen · 42 Bildschirme
夜はもう十時過ぎでしょう、雪模様の空はドンよりと頭上に押し冠さって、番町の往来は人の影もありません。
「ちょいとお尋ねしますが――」
不意に声を掛けられて、ふたりは大きいビルディングの下に立ち停りました。
「この辺に塩谷さんというお宅はありませんか」
「サア」
相手は外套の襟を立てて、中折の庇を目深におろし、色眼鏡をかけた若い男です。
「いや、ご存じがなきゃいいんです、その辺で聴いてみましょう――おや、おや、ちょっとお待ち下さい、お嬢さん、コートに何んか変なものがブラ下っていますが、たれかのいたずらかも知れませんね、この節は人の悪いのがいるから、――ビルティングの前の街灯の所へいらっしゃい、見て上げましょう」
「――――」
男の調子は親切そうで、何んの巧みもありませんでした。愛子は何心なくビルディングの前の街灯の下まで行くと、道行く男は後ろへ廻って愛子の外套の裾を払ったりしておりましたが、不意に、真に不意に、愛子の体は宙に浮いて、ハイヒールの踵が一寸、二寸、三寸と、ペーヴメントを離れて空中に浮き上るではありませんか。
「お兄さん、た、大変ッ」
愛子が思わず悲鳴をあげたのも無理はありません。