Japanische Klassiker mit Furigana
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ひとのくに
人の国
豊島 与志雄
Lesen Sie 人の国 (ひとのくに) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 7.761 Zeichen · 16 Bildschirme
その時、ふと久保田さんの注意を惹いたものがあった。初めは、甚だ空漠とした芳香みたいなものだったが、それが次第にはっきりとしてきて、一定の形を取って、すぐ前に立ってる人の耳となった。久保田さんは何気なくそれに眼を止めたが、次には一心に見つめ初めた。令嬢風な扮装をした背の高い若い女で、束ね目も見せず一面に縮らした髪の下から、その耳朶がぽっかり覗き出していた。くるくると巻いてやんわり垂れてる薄赤いやつが、殆んど皮膚と地並な白い産毛に包まれて、赤味がかった細かい縮れ髪の中で、宛も海藻の中に浮いている、小さな水母のように見えたり、生きた貝殼のように見えたりした。光の加減かなんかで、そういう二つの変化を鼻っ先の耳が示す毎に、久保田さんは肩をぴくりとやっていたが、やがて腹の底がむしゃくしゃしてきて、同時に胸の中がもやもやっとしてきて、垂れていた右手を何心なく挙げると、ひょいとその耳の下の端をつまんでしまった。そして、中までふうわりしてきりっとしまった、もちゃもちゃした感じに喫驚したが、間髪を容れずに、縮れっ毛の大きな頭が迅速にぐるりと動いたので、また更に喫驚して、久保田さんはエヘンと大きな咳払いをした。