Japanische Klassiker mit Furigana
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にんげんはんえい
人間繁栄
豊島 与志雄
Lesen Sie 人間繁栄 (にんげんはんえい) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 19.038 Zeichen · 38 Bildschirme
心の底まで冷く冴え渡って、刀の方へじりじりと迫ってゆく。そして胸の何処か遠い奥の方で、宛も夢の中のように、道子、道子……と恋人の名が繰返される……。
廊下に女中の足音がしたので、彼ははっと我に返って、短刀をしまった。それから何の気もなく外へ出てみた。短刀の刀を見てるのと同じ気持の、冷く冴え返った月夜だった。彼は賑かな神社と反対の方へ、橋の方へ歩いていった。
うとうと居眠りをしてる橋番の前を、懐手のままふらりと通りぬけて、ひたひたとした波の音に聞き入りながら、首垂れて機械的に足を運んだ。
橋の半ば近くまで来た時、彼はぞっとして立竦んだ。すぐ其処に、橋の北側の欄干に背をもたせ、橋の上にじかに坐って両足を投げ出し、月の光を正面から白々と受けて、二人の女がいた。一人は銀杏返に結った年増で、旅館の女中らしい服装をし、一人は背も少し低く年も少し若く、小さな束髪に結って、白粉っ気のない浅黒い素顔で、膝に二歳ばかりの子供を抱いていた。
彼は初めの驚きが静まると、思わず二三歩近寄っていったが、言葉が独りでに先に出た。
「何をしてるんだい。」
銀杏返の女が、浴衣の上に褞袍を重ねた彼の姿をちらと見上げて、落付いた調子で答えた。