Japanische Klassiker mit Furigana
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やすきちのてちょうから
保吉の手帳から
Lesen Sie 保吉の手帳から (やすきちのてちょうから) von Akutagawa Ryūnosuke (芥川 竜之介) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 8.771 Zeichen · 18 Bildschirme
を見ると、「妻よ妻よ恋し」と云う言葉はおのずから唇に上って来るのだった。
保吉はこの間も彼の後ろに、若い海軍の武官が二人、麦酒を飲んでいるのに気がついていた。その中の一人は見覚えのある同じ学校の主計官だった。武官に馴染みの薄い彼はこの人の名前を知らなかった。いや、名前ばかりではない。少尉級か中尉級かも知らなかった。ただ彼の知っているのは月々の給金を貰う時に、この人の手を経ると云うことだけだった。もう一人は全然知らなかった。二人は麦酒の代りをする度に、「こら」とか「おい」とか云う言葉を使った。女中はそれでも厭な顔をせずに、両手にコップを持ちながら、まめに階段を上り下りした。その癖保吉のテエブルへは紅茶を一杯頼んでも容易に持って来てはくれなかった。これはここに限ったことではない。この町のカフェやレストランはどこへ行っても同じことだった。
二人は麦酒を飲みながら、何か大声に話していた。保吉は勿論その話に耳を貸していた訣ではなかった。が、ふと彼を驚かしたのは、「わんと云え」と云う言葉だった。彼は犬を好まなかった。犬を好まない文学者にゲエテとストリントベルグとを数えることを愉快に思っている一人だった。