Japanische Klassiker mit Furigana
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ひかりのないあさ
光のない朝
宮本 百合子
Lesen Sie 光のない朝 (ひかりのないあさ) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 5.418 Zeichen · 11 Bildschirme
刻々に景色の変る途中の有様は、どんなにおもんに珍しいものであったろう。
ここでは毛糸を巻くこともいらない。彼女は、矢張り楽そうに元気な顔付で座席の上に坐っている老夫人を、小さな声で、
「まあ! 大奥様」
と呼びかけては、幼児のように勇み立った。
山が見えたり、林の中を駈け抜けたり、ちらりと何か光ったと思うと、すぐ目の下に海が波をあげている様子! 日が暮れて、月が窓の外を汽車と競争するように飛び初めると、おもんはまるで夢の中にいるような心持になった。このまま、どこか遠い、すっかり世界の違った処へ行ってしまうのではあるまいか。
頼りないような、嬉しいような、胸を擽(くすぐ)る思いが自ら喉元にこみ上げて来るのである。
田舎の家へ着いて見ると、おもんの楽さは一層増した。軟かな春の空気は、ぐんぐん草の芽を育てると一緒に、彼女の心まで膨らすように感じられた。手脚には嘗て知らなかった愉しい活力が漲り、瞳は輝き、天は彼女の上で新しくなったようであった。朝、鏡に向って自分の僅の美しさ愛らしさにでも心附いたのは、このときが初めてなのである。
完く、おもんは、やっと咲いた一本の可憐な花のように見えた。