Japanische Klassiker mit Furigana
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やつがたけのまじん
八ヶ嶽の魔神
国枝 史郎
Lesen Sie 八ヶ嶽の魔神 (やつがたけのまじん) von 国枝 史郎 (くにえだしろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 160.664 Zeichen · 323 Bildschirme
廊下をへだてて裏庭に向かった。善美を尽くしたお寝間には、仄かに絹行灯が点っていた。その光に照らされて、美々しい夜具が見えていたが、その夜具の襟を洩れて、上品な寝顔の見えるのは金一郎様が睡っておられるのであった。
と、その時、きわめて幽かな、笛の音が聞こえて来た。いや笛ではなさそうだ。笛のような物の音であった。耳を澄ませばそれかと思われ、耳を放せば消えてしまう。そういったような幽かな音で、それが漸次近寄って来た。しかしどこからやって来たのか、またどの辺へ近寄って来たのか、それは知ることが出来なかった。とまれ漸次その音は寝間へ近寄って来るらしい。
金一郎様は睡っていた。お附きの人達も次の部屋で明方の夢をむさぼっていた。で、幽かな笛のような音を耳にした者は一人もなかった。
ではその笛のような不思議な音を、耳にすることの出来たものは、全然一人もなかったのであろうか?
下屋敷の内には一人もなかった。
しかし一人下屋敷の外で、偶然それを聞いたものがあった。
他でもない葉之助であった。
その葉之助は駕籠をつけてこの根岸までやって来たが紋兵衛の乗っているその駕籠が、森家の下屋敷へはいるのを見ると、しばらく茫然と立っていたが、やがて気が付くと足を返し、主君駿河守の下屋敷の方へ何心なく歩いて行った。