Japanische Klassiker mit Furigana
ja-reading.com
Lesen Sie japanische Klassiker online mit Furigana. Filtern Sie nach JLPT-Niveau, tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung und übersetzen Sie einen Satz.
こがらし
凩
寺田 寅彦
Lesen Sie 凩 (こがらし) von 寺田 寅彦 (てらだとらひこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 1.253 Zeichen · 3 Bildschirme
窪んだ眼にまさに没せんとする日が落ちて、頬冠りした手拭の破れから出た一束の白髪が凩に逆立って見える。再びヨボヨボと歩き出すと、ひとしきりの風が驀地に道の砂を捲いて老翁を包んだ時余は深き深き空想を呼起こした。しかしてこの哀れなる垂死の人の生涯を夢みた時、あたかもこの人の今の境遇が余の未来を現わしていて、余自身がこの翁の前身であるような感じがした。
彼は必ず希望を抱いて生れ、希望の力によって生きて来たであろう。否今もなおこの凩に吹き散る雲の影のようななんらかの希望の影を追うているではあるまいか。そしてこの果敢ない影を捕えんとしては幾度か墓のに躓いているのではあるまいか。凡そ何がはかないと云っても、浮世の人の胸の奥底に潜んだまま長い長い年月を重ねて終にその人の冷たい亡骸と共に葬られてしまって、かつて光にふれずに消えてしまう希望程はかないものがあろうか。
浮世の人はいかなる眼で彼を見るであろうか。各自の望みを追うに暇のない世人は、たまに彼の萎びた掌に一片の銅貨を落す人はあっても、おそらくはそれはただ自分の心の中の慈善箱に投げ入れるに過ぎぬであろう。そして今特別の同情を以て見ている余にさえも、この何処の何人とも知れぬ人の記憶が長く止まっていようとも思われぬ。