Japanische Klassiker mit Furigana
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ひみつ
刺青・秘密
谷崎 潤一郎
Lesen Sie 刺青・秘密 (ひみつ) von 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 32.935 Zeichen · 66 Bildschirme
「さあ、お召しなさい。」
こう云って男のざらざらした手が、私を掴んで、惶しく俥の上へ乗せた。
しめっぽい匂いのする幌の上へ、ぱらぱらと雨の注ぐ音がする。疑いもなく私の隣りには女が一人乗って居る。お白粉の薫りと暖かい体温が、幌の中へ蒸すように罩っていた。
轅を上げた俥は、方向を晦ます為めに一つ所をくるくると二三度廻って走り出したが、右へ曲り、左へ折れ、どうかすると Labyrinth の中をうろついて居るようであった。時々電車通りへ出たり、小さな橋を渡ったりした。
長い間、そうして俥に揺られて居た。隣りに並んでいる女は勿論T女であろうが、黙って身じろぎもせずに腰かけている。多分私の眼隠しが厳格に守られるか否かを監督する為めに同乗して居るものらしい。しかし、私は他人の監督がなくても、決してこの眼かくしを取り外す気はなかった。海の上で知り合いになった夢のような女、大雨の晩の幌の中、夜の都会の秘密、盲目、沈黙―――凡べての物が一つになって、渾然たるミステリーの靄の裡に私を投げ込んで了って居る。
やがて女は固く結んだ私の唇を分けて、口の中へ巻煙草を挿し込んだ。そうしてマッチを擦って火をつけてくれた。