Japanische Klassiker mit Furigana
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ひみつ
刺青・秘密
谷崎 潤一郎
Lesen Sie 刺青・秘密 (ひみつ) von 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 32.935 Zeichen · 66 Bildschirme
暗いのでハッキリは見えないが、さあッさあッと云う松風の音が丘全体を揺がしているので、それと想像がつくのである。だんだん近づくに随って、路は丘の裾を縫って松の間を右の方へ迂廻している。私の周囲には木の下闇がひたひたと拡がって、あたりは前よりも一層暗さが濃くなっている。私は首を上げて空を仰いだ。が、鬱蒼とした松の枝に遮られて空は少しも見えない。頭の上では例の松風の音が颯々と聞えている。私はもう、腹の減っていることも何も忘れて、ひたすら恐ろしいばかりであった。電信柱のごうごうと云う唸りも蓮沼のカサカサと云う音も聞えなくなって、ただ海の轟きばかりが未だに地響きをさせて鳴っている。何だか足の下が馬鹿に柔かになって、歩く度毎にぼくりぼくりと凹むような心地がする。きっと路が砂地になったのであろう。そうだとすれば別に不思議はない訳だが、しかしやっぱり気持が悪い。いくら歩いても一つ所を蹈んでいるようである。砂地と云うものがこんなに歩きにくいとは今迄嘗て感じなかった。おまけに、前とは違って僅かの間に路が何遍も左へ曲ったり右へ折れたりする。うっかりすると松林へ紛れ込んでしまいそうである。