Japanische Klassiker mit Furigana
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うごかぬおんな
動かぬ女
岡本 かの子
Lesen Sie 動かぬ女 (うごかぬおんな) von 岡本 かの子 (おかもとかのこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 1.668 Zeichen · 4 Bildschirme
この状態をそのまま持ち続けて小田原から熱海通いの軽便鉄道へ私達と共に一行は移って来た。
初冬の午後であった。柔かく和いで温かそうな潮が、遠濃やかに湛えた相模灘が、小田原の海岸を走る私達の眼の前に展けた。
「あっ」
と小供達は声をあげて、今迄の騒音を、すっかり静めた。
「あっ」
と私達も感嘆して、窓へ両手をかけ、瞳ははてしもなく遠い彼方へ吸われて行った。
汽車はやがて廃れた様な暗い民家の低い軒毎を明るくして新鮮な蜜柑の山積する海添いの村落に入った。
「やあ、蜜柑だ、蜜柑だ、大変な蜜柑だ」
と小供達は躍り上って喜んだ、私達もまた――。
汽車は進んで伊豆へ這入った。熟して満山にしたれあふれた蜜柑の黄金! 重ね重ね私達は驚嘆の声を発した。
「蜜柑をお呉れ十銭」
私達は、新酒を汲み別ける興味をもって、駅場々々に籠を抱えて居る女達から蜜柑を買って喰べ競べた。もぎ立ての高い香りにむせび乍ら、唇を赤くして飽かず喰べた。前の子供等もいつか私達を真似て居た。家扶も子供に交って居た。うとうとと眠る老紳士から離れて。
終始令嬢は動かなかった――その取済ました顔に表われたものは、病弱な疲労でもなく、深いなやみの陰影でもなかった。