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Japanische Klassiker mit Furigana

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ちどり

千鳥

鈴木 三重吉

Lesen Sie 千鳥 (ちどり) von 鈴木 三重吉 (すずきみえきち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 19.951 Zeichen · 41 Bildschirme

Aozora Bunko

初やも言い含められでもしたのか、妙に藤さんの名さえも口に出さなかった。二人で何とか考えての事かもしれないと思ったが、そんなことはどうでもよかった。聞かされさえしなければいいのである。その後小母さんからよこす手紙にも、いつでも自分がいたころの事をあれこれ回想していながら、今に藤さんの話は垢ほども書いてはこない。

以来永く藤さんの事は少しも思わない。よく思うのは思うけれど、それは藤さんを思うのではない。千鳥の話の中の藤さんを思うのである。今でも時々あの袖を出してみることがある。寝つかれぬ宵なぞにはかならず出してみる。この袖を見るには夜も更けぬとおもしろくない。更けて自分は袖の両方の角を摘んで、腕を斜に挙げて灯し火の前に釣るす。赤い袖の色に灯影が浸みわたって、真中に焔が曇るとき、自分はそぞろに千鳥の話の中へはいって、藤さんといっしょに活動写真のように動く。自分の芝居を自分で見るのである。始めから終りまで千鳥の話を詳しく見てしまうまでは、翳す両手のくたぶれるのも知らぬ。袖を畳むとこう思う。この袂の中に、十七八の藤さんと二十ばかりの自分とが、いつまでも老いずに封じてあるのだと思う。