Japanische Klassiker mit Furigana
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はるかなたび
原民喜戦後全小説
原 民喜
Lesen Sie 原民喜戦後全小説 (はるかなたび) von 原 民喜 (はらたみき) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 60.577 Zeichen · 124 Bildschirme
そして、僕はすぐにこれをお前に読ませたくなると、まるでお前がまだ何処かこの世の片隅に生きているのではないかという気がした。僕はこれを読むときのお前の顔つきも、その顔つきを眺めている僕自身の顔つきまですっかり想像できるのであった。だが、こういう空想に浸っている時でも、僕は自分のいる家が猛火につつまれる時のことがおもわれてならなかった。お前と死別れて広島に帰って来た僕は今度はここの家の最後の姿を見とどけることになるのかしらと考えていた。
そして、間もなくそれはそのとおりになったのだった。あれは夏の朝のほんの数秒間の出来事だった。真暗な音響とともに四方の壁が滑り墜ち、濛々と煙る砂塵が鎮まると、いたるところに明るい透間と柱が見えて来た。それはおそろしく静かな眺めだった。僕はあの時、あの家の最初の姿と最後の姿を同時に見たような気がしたのだった。間もなく火の手があがりだしたので僕はあの家を逃出して行ったのだが、むかし僕の父が建て、そこで死んで行った家もあれが見おさめだったのだ。
あの時から僕はすっかり家というものを失ってしまった。しかし、どうしたものか郷里の家の姿はもうあまり僕の眼さきにちらつかなかった。