Japanische Klassiker mit Furigana
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るそんのつぼ
呂宋の壺
久生 十蘭
Lesen Sie 呂宋の壺 (るそんのつぼ) von 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 18.375 Zeichen · 36 Bildschirme
丸太に手を載せ、おしだすようにしながら泳ぎだしたが、手脚に力がなくて、思うようにやれない。しばらくやっているうちに関節が伸びて、いくらか調子がでてきた。
十間ぐらい泳いでは、ゆっくりと身体を休め、それからまた十間ぐらい泳ぐ。そんなことをくりかえしているうちに、泥堆の返波がさわいでいるところへさしかかった。波に巻かれて、丸太が際限もなくまわりだしてとまらない。丸太をとめようとあせっていると、大波がおしよせてきて頭のうえを越して行った。首に括りつけてあった壺が胸のほうへグルリと下ってきて、その重みでグングン海の底へ引きこまれて行く。吉之丞は、もうだめだと思い、無我夢中で壺をかいぐりとり、水を蹴って浮きあがると、鞴のような音をたてて息を吸った。
すぐそばに丸太が浮いている。丸太につかまってひと休みしているうちに、口惜しさがこみあげてきて思わず涙を流した。天下の珍宝を手に入れながら、波に脅えて捨ててしまった。この馬鹿さ加減は、なにに譬えようもなかった。
それからまた微々と泳ぎだしたが、陸に向いて泳いでいるのか、船のほうへ帰っているのか方角もつかず、ただもう藻掻きにもがいているうちに、自然と岸辺に流れつき、疲労困憊の極、砂浜に倒れて気を失ってしまった。