Japanische Klassiker mit Furigana
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あづまばし
問はずがたり・吾妻橋 他十六篇
永井 荷風
Lesen Sie 問はずがたり・吾妻橋 他十六篇 (あづまばし) von 永井 荷風 (ながいかふう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 75.586 Zeichen · 159 Bildschirme
窓の外には闇がだんだん濃く深くなって行く。その彼方から、遠くかすかに鉦叩く音がきこえて来る。道を隔て、谷川を渡り、山径を登る林の奥に寺がある。その寺から聞えて来るのだろう。
その寺はむかしむかし西の方の都から彷徨って来た尊い人が、初めて庵を結んだ跡だと云う。その人はわたくしが日本の史上に最も尊崇する人物の一人なのだ。その人は戦勝の後栄えるべき筈の世の中が、善からぬ政治のために再び敗れる事を予想し、世と人とを見限って姿を隠したのだ。破るるを知って戦うのも、世を逃れて姿を隠すのも、結果は同じ絶望のさせた事だろう。一人は花やかに、一人は静に、各その身の職分に応じて最後の処置を取ったのだ。罪は世の中に在る。時代に在って、人には無い。大廈の覆る時、一木はこれを支える力がない。時の運はその力その価なき匹夫にも光栄を担わせ、その才ありその心ある偉人にも失墜の恥辱を与える。いつの世にも歴史は涙の詩篇ではなかったか。
江戸三百年の事業は崩壊した。そして浮浪の士と辺陬の書生に名と富と権力とを与えた。彼等のつくった国家と社会とは百年を保たずして滅びた。徳川氏の治世より短きこと三分の一に過ぎない。