Japanische Klassiker mit Furigana
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あづまばし
問はずがたり・吾妻橋 他十六篇
永井 荷風
Lesen Sie 問はずがたり・吾妻橋 他十六篇 (あづまばし) von 永井 荷風 (ながいかふう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 75.586 Zeichen · 159 Bildschirme
たらしい。
季子は今夜初てここに来たのではない。この夏、姉の家の厄介になり初めてから折々憂鬱になる時、ふらりと外に出て、蟇口に金さえあれば映画館に入ったり、闇市をぶらついて立喰いをしたり、そして省線の駅はこの市川ばかりでなく、一ツ先の元八幡駅の待合所にも入って休むことがあった。その度々、別に気をつけて見るわけでもないが、この辺の町には新婚の人が多いせいでもあるのか、夕方から夜にかけて、勤先から帰って来る夫を出迎える奥様。また女の帰って来るのを待合す男の多いことにも心づいていた。季子はもう十七になっているが、しかし恋愛の経験は一度もした事がないので、さほど羨しいとも厭らしいとも思ったことはない。ただ腰をかけている間、あたりには何一ツ見るものがない為、遣場のない眼をそう云う人達の方へ向けるというまでの事で、心の中では現在世話になっている姉の家のことしか考えていない。姉の家にはいたくない。どこか外に身を置くところはないものかと、さし当り目当のつかない事ばかり考えつづけているのである。
この前来た時には短いスカートからむき出しの両足を随分蚊に刺されたが、今はその蚊もいなくなった。