Japanische Klassiker mit Furigana
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あづまばし
問はずがたり・吾妻橋 他十六篇
永井 荷風
Lesen Sie 問はずがたり・吾妻橋 他十六篇 (あづまばし) von 永井 荷風 (ながいかふう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 75.586 Zeichen · 159 Bildschirme
その瞬間の心持である。それから、お冬が前後二人の夫を捨てて東京へ行ったことである。
その瞬間、お冬は夫の姿を見て幽霊だと思った事もあり得べきことであろう。しかしそれよりもなお一層現実的に激しくお冬の身を襲ったものは、男の憎悪を直覚する肉体的女性の恐怖であろう。二人の男に情を通じていたことが暴露される時、女は必ず不安の念に襲われる。男の嫉妬と憎悪とが、報復と懲罰とをその身に加えはせぬかを恐れるのである。この不安と疑懼の念は道徳的反省の後に起るのではなくて、寧生理的に因るものと見ねばならない。お冬は宵闇の中から自分の名を呼んだ先夫の声をきくと共にその身体中に伝播する生理的恐怖に襲われた事は想像するに難くはない。羞恥と当惑とはその次に感じられるものであろう。
お冬が実家に逃げ帰った後、自活の道を求めるように決心したのは恐怖の後に起った羞恥の心が重なる原因となったのではなかろうか。同じ屋根の下に兄と弟との二人の男に身を任せたことが、今更らしく羞恥の念を呼び覚したに相違ない。初めこの女性が舅姑や親類一同に勧められて先夫の弟と結婚した時には、家族的生活の道具になることを明瞭に意識していなかった。