Japanische Klassiker mit Furigana
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なつのはな
夏の花・心願の国
原 民喜
Lesen Sie 夏の花・心願の国 (なつのはな) von 原 民喜 (はらたみき) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 152.816 Zeichen · 310 Bildschirme
その後、少女は死亡したのだ。だが、あの悲しげな少女の眼つきはいつまでも彼のなかに突立っていた。
わたしと交際ってみて下さいと約束して、反対の方向に駅で別れた女の眼つきを彼は思い出そうとしていた。その眼は祈りを含んだ眼だろうか、彼のなかに突立ってくるだろうか、……何か揺れ返る空間の波間にみた幻のようにおもえた。
轟音もろとも船は転覆する。巨濤が人間を攫い閃光が闇を截切る。あたり一めん人間の叫喚……。叫ぶように波を掻き分け、喚くように波に押されながら、恐しい渦のなかに彼はいる。しぶきが頬桁を撲り、水が手足を捩ぎとろうとする、刻々に苦しくなってゆく波に、ふと仄明りに漾っているボートが映る。と、その方向へひたすら、そこへ、一インチ、一インチとすべてが蠕動してゆく。が、漸く近づいたボートは既に遭難者で一杯なのだ。彼は無我夢中でボートの端に手を掛ける。と、忽ち頭上で鋭い怒声がする。
「離せ! この野郎!」
だが、彼は必死で船の方へ匐い上ろうとする。
「こん畜生! その手をぶった切るぞ!」
いま相手はほんとに鉈を振上げて彼の手を覘っているのだ。彼は縋りつくように、その男の眼を波間から見上げる。