Japanische Klassiker mit Furigana
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なつのはな
夏の花・心願の国
原 民喜
Lesen Sie 夏の花・心願の国 (なつのはな) von 原 民喜 (はらたみき) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 152.816 Zeichen · 310 Bildschirme
)だが、その僕はまだ助かってはいなかった。焔は迫って来た。滅茶苦茶にあがき廻った挙句、僕は東京の友人のところへ逃げ込んだ。
だが、僕を迎えてくれた友人の家も忽ち不思議な焔に包囲された。飢餓の火はじりじりと燻んで、人間の白い牙はさっと現れた。一瞬にして、人間の顔は変貌する。人間は一瞬の閃光で変貌する。長い長い不幸が人間を変貌させたところで、何の不思議や嘆きがあろう。――日夜、その家の細君のいかつい顔つきに脅えながら僕はひとり心に囁いていた。
紅の衣服に育てられし者も今は塵堆を抱く……乞食のような足どりで、僕は雑沓のなかや、焼跡の路を歩いた。焼跡の塵堆に僕の眼はくらくらし、ひだるい膝は前につんのめりそうだった。と頭上にある青空が、さっと透き徹って光を放つ。(この心の疼き、この幻想のくるめき)僕は眼も眩むばかりの美しい世界に視入ろうとした。
それから、僕を置いてくれていたその家の主人は、ある日旅に出かけると、それきり帰って来なかった。暫くして、その友人は旅先で愛人を得ていて、もう東京へは戻って来ないことが判った。それから僕はその家を立退かねばならなかった。