Japanische Klassiker mit Furigana
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なつのはな
夏の花・心願の国
原 民喜
Lesen Sie 夏の花・心願の国 (なつのはな) von 原 民喜 (はらたみき) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 152.816 Zeichen · 310 Bildschirme
突然、女はビリビリと声を震わせた。
「別れなければならない日が参りました。明日、明日もう一度ここでこの時刻にお逢い致しましょう」
そう云い捨てて、向側の鋪道へ走り去った。突然、それは彼にとって、あまりに突然だったのだが……。
女は翌日、約束の時刻に、その場所に姿を現していた。昨日と変って、女は静かに落着いた顔つきだった。が、その顔には何か滑り堕ちるような冷やかなものと、底抜けの夢のようなものが絡みあっている。
「遠いところから、遠いところから、わたしの愛人が戻って参りました」
遠いところから、遠いところから、という声が彼には夢のなかの歌声のようにおもえた。
「そうか、あなたには愛人があったのか」
「いいえ、いいえ、愛人があったところで、生きていることの切なさ、堪えきれなさは同じことで御座います」
生きていることの切なさ、淋しさ、堪えきれなさ、それも彼には遠いところから聴く歌声のようにおもえた。
「それではあなたはどうして僕に興味を持ったんです」
「それはあなたが淋しそうだったから、とても堪えきれない位、淋しそうな方だったから」
そう云いながら、女は手袋を外して、手を彼の方へ差出した。