Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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なつのはな

夏の花・心願の国

原 民喜

Lesen Sie 夏の花・心願の国 (なつのはな) von 原 民喜 (はらたみき) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 152.816 Zeichen · 310 Bildschirme

Aozora Bunko

彼は正三が手紙を書きかけている机の傍に坐り込むと、側にあったヴィンケルマンの『希臘芸術模倣論』の挿絵をパラパラとめくった。正三はペンを擱くと、黙って兄の仕事を眺めていた。若いとき一時、美術史に熱中したことのあるこの兄は、今でもそういうものには惹きつけられるのであろうか……。だが、清二はすぐにパタンとその本を閉じてしまった。

それはさきほどの「何とかせよ」という語気のつづきのようにも正三にはおもえた。長兄のところへ舞戻って来てからもう一カ月以上になるのに、彼は何の職に就くでもなし、ただ朝寝と夜更しをつづけていた。

彼にくらべると、この次兄は毎日を規律と緊張のうちに送っているのであった。製作所が退けてからも遅くまで、事務所の方に灯がついていることがある。そこの露次を通りかかった正三が事務室の方へ立寄ってみると、清二はひとり机に凭って、せっせと書きものをしていた。工員に渡す月給袋の捺印とか、動員署へ提出する書類とか、そういう事務的な仕事に満足していることは、彼が書く特徴ある筆蹟にも窺われた。判で押したような型に嵌った綺麗な文字で、いろんな掲示が事務室の壁に張りつけてある。