Japanische Klassiker mit Furigana
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なつのはな
夏の花・心願の国
原 民喜
Lesen Sie 夏の花・心願の国 (なつのはな) von 原 民喜 (はらたみき) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 152.816 Zeichen · 310 Bildschirme
奥の二階でひとり朝寝をしている正三のところへ、「いつまで寝ているのだ」と警告しに来るのも彼であった。
今も正三はこの兄の忙しげな容子にいつもの警告を感じるのであったが、清二は『希臘芸術模倣論』を元の位置に置くと、ふとこう訊ねた。
「兄貴はどこへ行った」
「けさ電話かかって、高須の方へ出掛けたらしい」
すると、清二は微かに眼に笑みを浮べながら、ごろりと横になり、「またか、困ったなあ」と軽く呟くのであった。それは正三の口から順一の行動について、もっといろんなことを喋りだすのを待っているようであった。だが、正三には長兄と嫂とのこの頃の経緯は、どうもはっきり筋道が立たなかったし、それに、順一はこのことについては必要以外のことは決して喋らないのであった。
正三が本家へ戻って来たその日から、彼はそこの家に漾う空気の異状さに感づいた。それは電燈に被せた黒い布や、いたるところに張りめぐらした暗幕のせいではなく、また、妻を喪って仕方なくこの不自由な時節に舞戻って来た弟を歓迎しない素振ばかりでもなく、もっと、何かやりきれないものが、その家には潜んでいた。順一の顔には時々、嶮しい陰翳が抉られていたし、嫂の高子の顔は思いあまって茫と疼くようなものが感じられた。