Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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なつのはな

夏の花・心願の国

原 民喜

Lesen Sie 夏の花・心願の国 (なつのはな) von 原 民喜 (はらたみき) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 152.816 Zeichen · 310 Bildschirme

Aozora Bunko

と軽くうそぶいた。……五月といえば、二カ月さきのことであったが、それまでこの戦争が続くだろうか、と正三は窃かに考え耽った。

何ということなしに正三は、ぶらぶらと街をよく散歩した。妹の息子の乾一を連れて、久し振りに泉邸へも行ってみた。昔、彼が幼かったとき彼もよく誰かに連れられて訪れたことのある庭園だが、今も淡い早春の陽ざしのなかに樹木や水はひっそりとしていた。絶好の避難場所、そういう想念がすぐ閃めくのであった。……映画館は昼間から満員だったし、盛場の食堂はいつも賑わっていた。正三は見覚えのある小路を選んでは歩いてみたが、どこにももう子供心に印されていた懐しいものは見出せなかった。下士官に引率された兵士の一隊が悲壮な歌をうたいながら、突然、四つ角から現れる。頭髪に白鉢巻をした女子勤労学徒の一隊が、兵隊のような歩調でやって来るのともすれちがった。

……橋の上に佇んで、川上の方を眺めると、正三の名称を知らない山々があったし、街のはての瀬戸内海の方角には島山が、建物の蔭から顔を覗けた。この街を包囲しているそれらの山々に、正三はかすかに何かよびかけたいものを感じはじめた。