Japanische Klassiker mit Furigana
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なつのはな
夏の花・心願の国
原 民喜
Lesen Sie 夏の花・心願の国 (なつのはな) von 原 民喜 (はらたみき) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 152.816 Zeichen · 310 Bildschirme
栄橋を渡ってしまうと、とにかく吻として足どりも少し緩くなる。鉄道の踏切を越え、饒津の堤に出ると、正三は背負っていた姪を叢に下ろす。川の水は仄白く、杉の大木は黒い影を路に投げている。この小さな姪はこの景色を記憶するであろうか。幼い日々が夜毎、夜毎の逃亡にはじまる「ある女の生涯」という小説が、ふと、汗まみれの正三の頭には浮ぶのであった。……暫くすると、清二の一家がやって来る。嫂は赤ん坊を背負い、女中は何か荷を抱えている。康子は小さな甥の手をひいて、とっとと先頭にいる。(彼女はひとりで逃げていると、警防団につかまりひどく叱られたことがあるので、それ以来この甥を借りるようになった)清二と中学生の甥は並んで後からやって来る。それから、その辺の人家のラジオに耳を傾けながら、情勢次第によっては更に川上に溯ってゆくのだ。長い堤をずんずん行くと、人家も疏らになり、田の面や山麓が朧に見えて来る。すると、蛙の啼声が今あたり一めんにきこえて来る。ひっそりとした夜陰のなかを逃げのびてゆく人影はやはり絶えない。いつのまにか夜が明けて、おびただしいガスが帰路一めんに立罩めていることもあった。