Japanische Klassiker mit Furigana
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なつのはな
夏の花・心願の国
原 民喜
Lesen Sie 夏の花・心願の国 (なつのはな) von 原 民喜 (はらたみき) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 152.816 Zeichen · 310 Bildschirme
それからまた思いきり、一もみ風は襲撃して来る。私も万一の時のことを寝たまま考えてみた。持って逃げるものといったら、すぐ側にある鞄ぐらいであった。階下の便所に行く度に空を眺めると、真暗な空はなかなか白みそうにない。パリパリと何か裂ける音がした。天井の方からザラザラの砂が墜ちて来た。
翌朝、風はぴったり歇んだが、私の下痢は容易にとまらなかった。腰の方の力が抜け、足もとはよろよろとした。建物疎開に行って遭難したのに、奇蹟的に命拾いをした中学生の甥は、その後毛髪がすっかり抜け落ち次第に元気を失っていた。そして、四肢には小さな斑点が出来だした。私も体を調べてみると、極く僅かだが、斑点があった。念のため、とにかく一度診て貰うため病院を訪れると、庭さきまで患者が溢れていた。尾道から広島へ引上げ、大手町で遭難したという婦人がいた。髪の毛は抜けていなかったが、今朝から血の塊が出るという。妊っているらしく、懶そうな顔に、底知れぬ不安と、死の近づいている兆を湛えているのであった。
舟入川口町にある姉の一家は助かっているという報せが、廿日市の兄から伝わっていた。義兄はこの春から病臥中だし、とても救われまいと皆想像していたのだが、家は崩れてもそこは火災を免れたのだそうだ。