Japanische Klassiker mit Furigana
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なつのはな
夏の花・心願の国
原 民喜
Lesen Sie 夏の花・心願の国 (なつのはな) von 原 民喜 (はらたみき) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 152.816 Zeichen · 310 Bildschirme
最初、こういうことに気附いたのは、たしか、己斐から天満橋へ出る泥濘を歩いている時でした。恰度、雨が降りしきっていましたが、向うから赤錆びたトタンの切れっぱしを頭に被り、ぼろぼろの着物を纏った乞食らしい男が、雨傘のかわりに翳しているトタンの切れから、ぬっと顔を現しました。そのギロギロと光る眼は不審げに、槇氏の顔をまじまじと眺め、今にも名乗をあげたいような表情でした。が、やがて、さっと絶望の色に変り、トタンで顔を隠してしまいました。
混み合う電車に乗っていても、向うから頻りに槇氏に対って頷く顔があります。ついうっかり槇氏も頷きかえすと、「あなたはたしか山田さんではありませんでしたか」などと人ちがいのことがあるのです。この話をほかの人に話したところ、見知らぬ人から挨拶されるのは、何も槇氏に限ったことでないことがわかりました。実際、広島では誰かが絶えず、今でも人を捜し出そうとしているのでした。
(昭和二十二年十一月号『三田文学』)