Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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なつのはな

夏の花・心願の国

原 民喜

Lesen Sie 夏の花・心願の国 (なつのはな) von 原 民喜 (はらたみき) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 152.816 Zeichen · 310 Bildschirme

Aozora Bunko

僕は弱い、僕は弱い、僕は弱いという声がするようだ。今も僕のなかで、僕のなかで、その声が……。自分のために生きるな、死んだ人たちの嘆きのためにだけ生きよ。僕のなかでまたもう一つの声がきこえてくる。

僕はソファを立上る。僕は歩きだす。案内人は何処へ行ったのかもう姿が見えない。僕はひとりで、陳列戸棚の前を茫然と歩いている。僕はもうこの記念館のなかの陳列戸棚を好奇心で覗き見る気は起らない。僕の想像を絶したものが既に発明され此処に陳列してあるとしても、はたしてこれは僕の想像を絶したものであろうか。そのものが既に発明されて此処に陳列してあること、陳列されてあること、陳列してあるということ、そのことだけが僕の想像を絶したことなのだ。僕は憂鬱になる。僕は悲惨になる。自分で自分を処理できない狂気のように、それらは僕を苦しめる。僕はひとり暗然と歩き廻って、自分の独白にきき入る。泉。泉。泉こそは……

そうだ、泉こそはかすかに、かすかな救いだったのかもしれない。重傷者の来て呑む泉。つぎつぎに火傷者の来て呑む泉。僕はあの泉あるため、あの凄惨な時間のなかにも、かすかな救いがあったのではないか。