Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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なつのはな

夏の花・心願の国

原 民喜

Lesen Sie 夏の花・心願の国 (なつのはな) von 原 民喜 (はらたみき) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 152.816 Zeichen · 310 Bildschirme

Aozora Bunko

そんなはずはなかった。わたしは昔それほど熱狂したおぼえはなかった。わたしはわたしが怕くなりかかった。突然、その後姿がわたしの方を振向いていた。突き刺すような眼なざしで、……ハッと思う瞬間、それはわたしの夫だった。そんなはずはなかった。夫はあのとき死んでしまったのだから。突き刺すような眼なざしに、わたしはざくりと突き刺されてしまっていた。熱い熱いものが背筋を走ると足はワナワナ震え戦いた。人ちがいだ、人ちがいだ、とパッと叫んでわたしは逃げだしたくなる。わたしはそれでも気をとりなおした。わたしを突き刺した眼なざしの男は、次の瞬間、人混みの青い闇に紛れ去っていた。後姿はまだチラついたが……。

人ちがいだ、人ちがいだった、わたしはわたしに安心させようとした。後姿はまだチラついたが……わたしはわたしの眼を信じようとした。わたしはハッきり眼をあけていたかった。水晶のように澄みわたって見える、そんな視覚をとりもどしたかった。澄みきった水の底に泳ぐ魚の見える、そんな感覚をよびもどしたかった。だけど、わたしはがっかりしたのか、ひどく視力がゆるんでしまった。怕しい怕しいことに出喰わした後の、ゆるんだ視覚がわたしらしかった。