Japanische Klassiker mit Furigana
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なつのはな
夏の花・心願の国
原 民喜
Lesen Sie 夏の花・心願の国 (なつのはな) von 原 民喜 (はらたみき) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 152.816 Zeichen · 310 Bildschirme
と同時にそれは彼自身の広漠として心をそそる遠い過去の生前の記憶とも重なり合っていた。あの何か鏡のようにひっそりとした空で美しく燃え狂っている光の帯は、もしかするとあの頂点の方に総てはあって、それを見上げている彼自身は儚い影ではなかろうか。……これを見せてやろう、ふと彼は妻の姿を求めて、露次の外の窓から家のなかを覗き込んだ。妻は縁側の静臥椅子に横臥した儘、ぼんやりと向側の軒の方の空を眺めていた。それは衰えてゆく外の光線に、あたかも彼女自身の体温器をあてがっているような、祈りに似たものがある。ほんの些細な刺戟も彼女の容態に響くのだが、そうしていま彼女のいる地上はあまりにも無惨に罅割れているのだったが、それらを凝と耐え忍んでゆくことが彼女の日課であった。
「外へ椅子を持出して休むといいよ」
彼は窓から声をかけてみた。だが、妻は彼の云う意味が判らないらしく、何とも応えなかった。その窓際を離れると、板壁に立掛けてあるデッキ・チェアーを地面に組み立てて、その上に彼は背を横えた。そこからもさきほどの、あの梢の光線は眺められた。首筋にあたるチェアーの感触は固かったが、彼はまるで一日の静かな療養をはたした病人のように、深々と身を埋めていた。