Japanische Klassiker mit Furigana
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なつのはな
夏の花・心願の国
原 民喜
Lesen Sie 夏の花・心願の国 (なつのはな) von 原 民喜 (はらたみき) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 152.816 Zeichen · 310 Bildschirme
僕のまわりにある無数の雑音、無数の物象、めまぐるしく、めまぐるしく、動きまわるものたち、それらは静かに、それらは素直に、無限のかなたで、ひびきあい、結びつき、流れてゆくことを気づかないで、いつもいつも流れてゆく。書店の飾窓の新刊書、カバンを提げた男、店頭に置かれている鉢植の酸漿、……あらゆるものが無限のかなたで、ひびきあい、結びつき、ひそかに、ひそかに、もっとも美しい、もっとも優しい囁きのように。僕はいつも行く喫茶店に入り椅子に腰を下ろす。いつもいる少女は、いつものように僕が黙っていても珈琲を運んでくる。僕は剥ぎとられた世界の人間。だが、僕はゆっくり煙草を吸い珈琲を飲む。僕のテーブルの上の花瓶に活けられている白百合の花。僕のまわりの世界は剥ぎとられてはいない。僕のまわりのテーブルの見知らぬ人たちの話声、店の片隅のレコードの音、僕が腰を下ろしている椅子のすぐ後の扉を通過する往来の雑音。自転車のベルの音。剥ぎとられていない懐しい世界が音と形に充満している。それらは僕の方へ流れてくる。僕を突抜けて向側へ移ってゆく。透明な無限の速度で向側へ向側へ向側へ無限のかなたへ。