Japanische Klassiker mit Furigana
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なつのはな
夏の花・心願の国
原 民喜
Lesen Sie 夏の花・心願の国 (なつのはな) von 原 民喜 (はらたみき) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 152.816 Zeichen · 310 Bildschirme
たしか、こういう光景は映画などで見たことがある。濛々と煙る砂塵のむこうに青い空間が見え、つづいてその空間の数が増えた。壁の脱落した処や、思いがけない方向から明りが射して来る。畳の飛散った坐板の上をそろそろ歩いて行くと、向うから凄さまじい勢で妹が駈けつけて来た。
「やられなかった、やられなかったの、大丈夫」と妹は叫び、「眼から血が出ている、早く洗いなさい」と台所の流しに水道が出ていることを教えてくれた。
私は自分が全裸体でいることを気付いたので、「とにかく着るものはないか」と妹を顧ると、妹は壊れ残った押入からうまくパンツを取出してくれた。そこへ誰か奇妙な身振りで闖入して来たものがあった。顔を血だらけにし、シャツ一枚の男は工場の人であったが、私の姿を見ると、「あなたは無事でよかったですな」と云い捨て、「電話、電話、電話をかけなきゃ」と呟きながら忙しそうに何処かへ立去った。
到るところに隙間が出来、建具も畳も散乱した家は、柱と閾ばかりがはっきりと現れ、しばし奇異な沈黙をつづけていた。これがこの家の最後の姿らしかった。後で知ったところに依ると、この地域では大概の家がぺしゃんこに倒壊したらしいのに、この家は二階も墜ちず床もしっかりしていた。