Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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なつのはな

夏の花・心願の国

原 民喜

Lesen Sie 夏の花・心願の国 (なつのはな) von 原 民喜 (はらたみき) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 152.816 Zeichen · 310 Bildschirme

Aozora Bunko

今、鉄筋の残骸を見上げ、その円屋根のあたりに目を注ぐと、春のやわらかい夕ぐれの陽ざしが虚しく流れている。雀がしきりに飛びまわっているのは、あのなかに巣を作っているのだろう。……時は流れた。今はもう、この街もいきなり見る人の眼に戦慄を呼ぶものはなくなった。そして、和やかな微風や、街をめぐる遠くの山脈が、静かに何かを祈りつづけているようだ。バスが橋を渡って、己斐の国道の方に出ると、静かな日没前のアスファルトの上を、よたよたと虚脱の足どりで歩いて行く、ふわふわに脹れ上った黒い幻の群が、ふと眼に見えてくるようだった。

翌朝、彼は瓦斯ビルで行われる「広島の会」に出かけて行った。そこの二階で、広島ペンクラブと日本ペンクラブのテーブルスピーチは三時間あまり続いた。会が終った頃、サインブックが彼の前にも廻されて来た。〈水ヲ下サイ〉と彼は何気なく咄嗟にペンをとって書いた。それから彼はMと一緒に中央公民館の方へ、ぶらぶら歩いて行った。Mは以前から広島のことに関心をもっているらしかったが、今度ここで何を感受するのだろうか、と彼はふと想像してみた。よく晴れた麗しい日和で、空気のなかには何か細かいものが無数に和みあっているようだった。