Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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なつのはな

夏の花・心願の国

原 民喜

Lesen Sie 夏の花・心願の国 (なつのはな) von 原 民喜 (はらたみき) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 152.816 Zeichen · 310 Bildschirme

Aozora Bunko

とすさまじい勢で時が逆流する。子供の時そういうものを眺めた苦悩とも甘美とも分ちがたい感覚がすぐそこにあり、何か密画風の世界と、それをとりまく広漠たる夢魔が入り混っていた。それは彼の午睡のなかにも現れた。ぐったりと頭と肩は石のように無感覚になっていて、彼の睡っている斜横の方角に、庭の酸漿の実が見えてくる。ほおずきの根元が急に嶮しく暗くなってゆくと、朱い実が一きわ赤く燃え立つのが、何か悪い予感がして、それを見ていると、無性に堪らなくなる。彼は子供の頃たしかにこれと同じような悪寒に襲われていたのをぼんやり思い出す。と、その夢とはまた別個に、彼の睡っている眼に、膝こぶしの一部が巨大な山脈か何かのように茫と浮び上る。見ると、そこは確か先日から小さな腫物ができて、赤くはれ上っていたのだが、今そこが噴火山となって赤々と煙を噴き上げている。二つの夢が分裂したまま同時に進行してゆく状態が終ると、彼は虚脱者のように眼を見ひらいていた。陽はまだ庭さきにギラギラ照っていたが、畳の上には人心地を甦らすものがあって、そのなかに黄色のワン・ピースを着た妻の姿があった。彼は柱に凭掛って、暫く虚脱のあとを吟味していた。