Japanische Klassiker mit Furigana
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なつのはな
夏の花・心願の国
原 民喜
Lesen Sie 夏の花・心願の国 (なつのはな) von 原 民喜 (はらたみき) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 152.816 Zeichen · 310 Bildschirme
茫然としてもの思いに耽っている彼を、妻はよくこう云った。
「エゴのない作家は嫌です。誰が何と云おうとも、たとえ全世界を捨てても……」
そういう妻の眼もギラギラと燃え光っていた。澱みやすい彼の気分を掻きまぜ沈む心をひき立てようとするのも彼女だった。それから妻は茶の湯の稽古などに通いだした。だが、その妻の挙動にも以前と違ういらだちが滲んで来た。
「淋しい、淋しい、何かお話して頂戴」
真夜なかに妻は甘えた。二人だけの佗住居を淋しがる彼女ではなかったのに、何かの異常なものの予感に堪えきれなくなったらしい。だが、それが何であるかは、彼にはまだ分らなかった。
その悲壮がやって来たのは、もう二年後のことだった。夏の終り頃、彼は一人で山の宿へ二三泊の旅をしたが、殆ど何一つ目も心も娯しますもののないのに驚いた。山の湖水の桟橋に遊覧用のモーター・ボートが着く。青い軍服を着た海軍士官の一隊が――彼の眼には編笠をかむって珠数繋ぎになっている囚人の姿に見えてくる。こうした憂鬱に沈みきって、悄然とむなしい旅から戻って来た。家へ戻ってからも彼は己れと己れの心に訝りながら佗しい旅の回想をしていた。