Japanische Klassiker mit Furigana
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なつのはな
夏の花・心願の国
原 民喜
Lesen Sie 夏の花・心願の国 (なつのはな) von 原 民喜 (はらたみき) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 152.816 Zeichen · 310 Bildschirme
そこから坂道を登って行けば病院だったが、その辺を歩いている時、ふと彼の時間は冷やかな秋の光で結晶し、永遠によって貫かれているような気がした。それから、病院の長い長い廊下や、(それは夢のなかの廊下ではなかったが)大概、彼が行くときか帰りかにきっと出逢う中風患者の姿、(冷たい雨の日も浴衣がけで何やら大袈裟な身振りで、可憐に片手を震わせていた)合同病室の扉の方から喰み出している痩せた女の黄色い顔、一つの角を曲ると忽ち轟然とひびいて来る庖厨部の皿の音、――そうした病院の風景を家に帰って振返ってみると、彼には半分夢のなかの印象か、ひそかに愛読している書物のなかにある情景のようにおもえた。
だが、彼の妻が白い寝巻の上にパッと派手な羽織をひっかけ、「その辺まで見送ってあげましょう」と、外の廊下の曲り角まで一緒について来て、「ここでおわかれ」と云った時、彼はかすかに後髪を牽かれるようなおもいがした。そこには、妻の振舞のあざやかさがひとり取残されていた。
ひとりで、附添も置かず、その部屋で暮している妻は、彼が訪れて行くたびに、何かパッと新鮮な閃きをつたえた。
「熱はもうすっかり退がりました。